ニューペックを徹底解剖

ウィンドウズPCでの運用を基本として、2009年にリリースされた航海用電子参考図「new pec(ニューペック)」。
現在では、国内メーカー各社の舶用機器のマップデータに導入されているほか、モバイル用アプリも登場し、「new pecファミリー」として、さらに多くのユーザーに利用されています。ここでは、PC版「new pec」をベースに、基本的な機能と特徴について解説します。

※ここで紹介する機能は、PC版「new pec」のものであり、「new pecファミリー」の各機器には搭載されていない機能も一部あります。

new pec

PC版のポイント!

「new pec」ってなんですか?

「new pec(ニューペック)」は、(一財)日本水路協会が発行する「航海用電子参考図」です。2009年にPC版new pecが発表された当時、すでに国内では「ENC」のような電子海図もありましたが、これは元々が大型船での利用を視野に入れて開発されたものだけに、高価で大掛かりな専用の表示装置を必要とするなど、プレジャーボートなど小型船のユーザーにとっては、あまり現実的なツールとはいえないものでした。
また、大型船が求めている情報だけでは、プレジャーボートなど小型船が必要とする情報としては不十分であり、必ずしも満足できるものではありません。小型船が安全に航行するために要求される情報は、どうしても海図だけではカバーすることができず、より大縮尺の詳細図が求められるわけです。
こういった、現場からのさまざまな声に応えて開発されたのが「new pec」です。結果として、小型船から大型船まで、そしてプレジャーボートから内航船まで、あらゆるニーズを満たす画期的なデジタルチャートが誕生しました。

new pec

① 全エリアを1/5,000まで拡大表示

紙の海図によるナビゲーションでは、航行するエリアごとに異なる海図を用意しなければなりません。また、より詳しい情報を知りたければ、広域図以外に、縮尺の大きな詳細図が別途必要になります。
しかし、new pecは、離島を含む全国すべての海域のデータを網羅(全8海域)。しかも、その全海域において、1/5,000までの拡大表示が可能です。マップ画面の拡大/縮小も、マウスホイールを使えば思いのまま。1/5,000まで拡大すれば、港の中の様子もよく分かりますし、浅瀬や岩礁といった危険な箇所も、きちんと把握することができます。new pecの全国版のデータ量は、紙の海図に換算すると、なんと約570枚分にも匹敵します。

全エリアを1/5,000まで拡大表示
1/5,000の縮尺まで拡大表示したところ

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② 2m/5m/10mの等深線データを収載

沿岸部では、同じ水深ごとに1本の線をつないだ等深線データが、2m/5m/10mと用意されています。プレジャーボートなど小型船が安全なナビゲーションを行う上では、本当に知りたい水深情報だといって過言ではないでしょう。
また、個々のユーザーによって異なる「安全等深線」の表示レベルは、2m/5m/10mと自由に切り替えることができるので、非常に便利。ほかにも、「障害物」、「航路境界等」、「陸上表示物」など、さまざまな表示項目について、ユーザーの利用目的に合わせて、簡単にカスタマイズができるようになっています。

2m/5m/10mの等深線データを収載
陸に近いほうから、2m、5m、10mの等深線。色分けされている

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③ 定置網などの漁具や航路標識も表示

日本の沿岸域の大きな特徴として、定置網や養殖筏(いかだ)などの漁具が数多く設置されていることが挙げられます。そして、こういった漁具が、実はプレジャーボートなど小型船が航行する際には、大変危険なものなのです。
いくら見張り(ワッチ)をしていても、事前に存在を知らなければ、これらを見落としてしまうことがあります。その結果、漁具に引っかかってしまったり、あるいは乗り上げてしまったりという事故が、毎年数多く発生しています。実際、小型船の事故原因として最も数が多いのが、これら漁具や浅瀬への乗り上げ事故なのです。
new pecには、全国の定置網などの漁具のほか、航路標識もきちんと表示。もちろん、マップ画面を1/5,000まで拡大することができるので、水の中に潜んでいる浅瀬や岩礁といった危険物も、しっかり把握することができます。日本の海を知り尽くしたプロが、日本の海を走るユーザーのために作ったnew pecは、正確で詳細なデータを持つ、ハイクオリティーなデジタルチャートです。

定置網などの漁具や航路標識も表示
赤い斜線で表示されているのが定置網などの漁具

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④ 漁港やマリーナの情報も充実

『Sガイド(プレジャーボート・小型船用港湾案内)』は、小型船が利用する小さな港湾やヨットハーバーなど、海図には詳しく情報が掲載されていない港について、図のほかに目標や出入港における針路、障害物、マリーナ情報などを分かりやすく解説したものです。従来の冊子版に代わって、2015年からダウンロード版が提供されています。
この『Sガイド』の情報が、なんとnew pecには全て収載されているため、わざわざ『Sガイド』を別途購入する必要もありません。「地点照会」の機能を使ってポイントを指定すれば、該当する港の『Sガイド』のページがポップアップで表示されます。オールインワンで大切なナビゲーション情報を使えるのは非常に便利ですし、費用面を考えても大変お得だといえるでしょう。

漁港やマリーナの情報も充実
PC版には『Sガイド』の情報も収載されている

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⑤ データは年4回アップデート

デジタルチャートであるnew pecは、内容について年4回のアップデートが行われています。情報が古くなったからといって、わざわざ新しいものに買い換える必要はなく、アップデートを行えば、その時点で最新版のnew pecが使えるのです。 アップデート(バージョンアップ)はオプション(有償)で、申し込みから3年間有効。いつでもアップデート情報をダウンロードできるようになるほか、本来は有償の「潮汐・潮流データ」のオプションサービスが、契約年+3年間、無償で利用できる点も見逃せないでしょう。

データは年4回アップデート
PC版のデータアップロードは、ウェブサイトからデータをダウンロードする

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⑥ 豊富なオプション機能

new pecには、ほかにもさまざまなオプション(有償)が用意されています。
まず一つが「潮汐・潮流データ」。潮汐(潮の満ち干)は、特に干満差が大きなエリアを航行するときには、事前に必ず把握しておきたい情報です。new pecでは、登録されている中からポイントを指定するだけで、詳細な潮汐カーブが表示することができます。同様に、潮流データについても、登録された箇所の情報を閲覧することが可能になっています。
そして、もう一つ忘れてはならないオプションが、「海底地形データ」です。日本の全ての海域の等深線データが、想像を超える細かさで表示され、海底の複雑な起伏なども一目瞭然。海底の様子が、まるで現実のようにイメージできるでしょう。特にフィッシングユーザーには、のどから手が出るほど欲しい情報に違いありません。

豊富なオプション機能
オプションの海底地形データ

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⑦ 実戦で使える二つのモード

new pecは、情報を得るための参考図という機能だけにとどまるものではありません。「航海計画モード」と「航海支援モード」があり、事前に航海計画を立てたり、実際に洋上では自船の現在位置を表示させながらナビゲーションを行うといったこともできるツールです。
例えば、事前にコースラインを引いておくときには、詳細な情報を元に、安全なルート設定が可能。GPSと接続することで、自船の現在位置をマップ上に表示することができるほか、対地速度や進行方位も表示されます。また、事前に設定したルートから外れていたり、障害物に近づいたりしたときには警報を鳴らす機能など、実際に現場で役に立つ機能が満載。new pecは、デジタルチャートの枠を超え、ナビゲーションツールとしての優れた機能を持っています。

実戦で使える二つのモード
航海計画モードで、事前にコースラインを引いてみた(赤い点線)